バナナオーシャン南方海域、周期的にわずかな期間のみ収まる強い嵐と複雑な海流に阻まれ隔絶された島・・・
封印が綻び、出現した害虫によってただ一人の生存者と数えるばかりの救助部隊の生還者を残して全員死亡する事件が発生する以前、その役割を忘れられ「楽園の島」とさえ称された、「監獄島」。
その監獄島があるはずの海域に、あるべき島も、周囲の嵐も。何も無くなっていた。
同時に騎士団に報告される、「巨大な嵐」の目撃情報の数々・・・これらはただ一つ、監獄島がスプリングガーデン本土に接近しているという事実を示していた。
最終到達地点は不明、世界花の加護の防御効果の有効性も不明、上陸時のバナナオーシャンへの影響も不明。
もはや一刻の猶予もなく、島を止める以外の選択肢など存在しない。
部隊編成は大きく分けて二つ。かつての事件の唯一の生存者と、実際に救助した生還者であるアキレア、ニリンソウ、ルドベキアの3人に、地上部分の初期調査に協力し、
ナイドホグル復活時の再封印決戦で使用した「光水晶の楔」の開発者の一人でもあるマロニエ。
島に詳しいこの4人を中核とした攻略作戦の主力部隊が一つ目である。
もう一つの舞台の中心は目標地点、いや、撃破対象の「マザー」が封印されている島の地下空洞に落下し、脱出してきた小隊、「マザー」に気付いたアベリアと、彼女と同じチームを組んで監獄島での訓練に参加したキンポウゲ、ベロペロネ、ムラサキハナナの4人を中核とした先遣隊。
基本的な作戦としてはこの二部隊による二段階波状上陸となった。
「光水晶の楔」を再設計した監獄島封印・改のための封印の楔を持ち、先遣隊が上陸する。
ここまではよかったが、害虫が陽動作戦により地下帰還小隊が分断先行した状態にされた。
ロータスレイクから本作戦の援軍として派遣されたトリトニア隊の協力によって地下への再侵入に成功したと報告されている。
彼女らは本隊と分断され、トリトニア調査隊も地上で4人の作戦遂行を妨害させないために害虫迎撃に残りたった4人というわずかな戦力ながら、封印力場の作成に必要な楔を無事に全て設置することに成功した。
予定通り、封印の発動を確認したため攻略本隊が上陸し、「マザー」の撃破、あるいは最低でも島の移動停止を目指す。
先遣隊が決死の戦闘によって発動させた封印を補強する形で、地上部・地下部両面から、「マザー」に対しての効果が期待できる、すなわち島の移動を停止させられるであろう大規模封印の力場を構築する。
そのためにも本隊は上陸後速やかに先遣隊の救出を行った。この時点で地下へ先行した4名以外の全員が救出され、本隊の地下力場形成部隊を以て彼女らの救出を並行する形で地下へと侵入した。
さらに二手に分かれて捜索を行い、アキレア隊が先行した4名を発見した間にマロニエ隊により封印は完成した。
にも拘らず、「マザー」に対し攻撃を行う奇妙な害虫の影響であるのか移動の阻止に失敗した。
その報告を合流した地下本隊が交わした際に、偶然アンゲロニアが(作戦中に)収集していた琥珀に対「マザー」封印効果があると判明し、作戦を琥珀の回収に変更した。
作戦参加者のマロニエより、この琥珀には、封印の力場を増幅・拡散させる系統の効果があると報告されている。
この時点で、「マザー」の全身に直接琥珀を打ち込むことで本体を封印するほか無い状況と判断したが、「マザー」が地上に浮上を開始してしまったため、地上に残った部隊は全員船へと緊急退避、地下に侵入した部隊を分割して回収した琥珀による封印を開始した。
「マザー」が地上に完全に出現した後、アキレアによって最後の封印が施され、「マザー」は今度こそ、その心臓の封印を以て鎮静化した。
現在、「マザー」封印の影響により、「監獄島」はその全てをバナナオーシャン南方の海中に沈没させた。
以上を以て、監獄島および暴風の壁の接近・上陸阻止の成功報告とする。
なお、作戦報告とは別件となるが、「マザー」について、監獄島地下空間での別行動中にマロニエとシルフィウムが発見したという賢人ダインが書いた資料の報告を以下に併記する。
「マザー」とは、かつて益虫を産む母なる存在であったが、害虫の「毒」により汚染され、産まれる子が全て害虫となる呪いにかかった状態で、今もなお害虫化に抗っていると思われる。
残る益虫を守るため、本土から遠く離れた南洋に島を作り、そのことを知って訪れたダインに協力して自らを封印した、その島が地上部分の正体だったようである。
琥珀が封印の鍵となるものであることもここに記載されていた。
また、アキレアより、「マザー」は害虫になる前に死にたかったのではないか、世界花の加護が強く花騎士が上陸しやすい位置への移動の理由もそれではないかとも報告されている。
封印の結果は「監獄島の悲劇」およびこれまでの2度の上陸報告のとおり、問題を先送りにする程度のことしかできなかったが、結果として「マザー」の望みは叶えられたと思われることを付記する
―とある報告書の、とある余白より・・・